法学類について

基礎法学部門

足立 英彦

【2007年度担当科目】

法理学、法思想史

【最近の研究分野】

法理学・法哲学全般。特に,20世紀初頭のドイツ系法理学・法哲学の研究に重点を置いています。

【学生へのメッセージ】

「法理学」(法哲学ともいいます)は法学の一分野であり,憲法学や民法学などの実定法学各分野に共通する諸問題を,とくに理論的な方法で検討することを課題としています。講義では,法の定義・法の効力の根拠・法解釈の方法・正義の理念等について概観します。

「法思想史」は,法に関する古代から現代までの諸思想を研究する分野ですが,扱う問題は「法理学」とさほど変わりません。講義では,古代から近代までの著名な思想家が,法や正義の理念についてどのような思想を展開したかを紹介します。

「法理学」「法思想史」について少し深く学びたい方は,まず,中山竜一『二十世紀の法思想』(岩波書店,2000年)を手にとってみてください。最近出版されたものの中では最良の法理学入門書であり,また,末尾に各テーマごとの文献案内も載っています。少し難しい文章に挑戦する意欲のある方には,ハンス・ケルゼン『純粋法学』(岩波書店,1935年)とグスタフ・ラートブルフ『法哲学』(東京大学出版会,1961年)を勧めます。前者は1934年,後者は1932年に出版されたものですが,今でも私たちの思考を刺激する良書といえます。

梅田 康夫

【2007年度担当科目】

日本法制史,外国書講読

【最近の研究分野】

日本裁判制度史

【学生へのメッセージ】

日本法制史とは日本における法の歴史を明らかにする学問です。今日の日本法は明治以降,欧米各国の法をお手本にしながら作り出したものがその基本になっています。それ以前の古い法が今日使われることは基本的にありません。大学の授業で習う法解釈学は現行法のみを対象としていますので,明治以降の法について知っていればそれで十分なようにも思われますが,それだけでは解決できない問題もあります。例えば立法論の領域に入りますが皇位の継承をどうするかという,これからの日本にとって大変に重要となる問題を考えてみれば,それは一目瞭然です。過去の日本社会における法やしきたりが幾層にも積み重なった上に,今日の法は機能しています。過去の法の歴史へ光を照射することによって,日本法の特質や実態がより明らかになることでしょう。日本法制史とはそのようなことを研究する学問です。現代の視点から日本法制史を学ぶきっかけを,興味深く楽しく平易に紹介している本を次に紹介しておきます。

石川一三夫・矢野達雄編著『法史学への旅立ち』

法律文化社,1998年5月,2415円

櫻井 利夫

【2007年度担当科目】

西洋法制史,外国文献研究(外国書講読II)(独語)

【最近の研究分野】

中世盛期ドイツの城主支配領域(シャテルニーchatellenie)

【学生へのメッセージ】

(1)自己紹介(研究紹介)

私の現在の研究テーマは,ドイツの中世盛期(特に11世紀から13世紀まで)について,フランス型のシャテルニー(chatellenie,城主支配領域,城主支配圏)が存在したかどうかという問題である。この問題は戦後日本で特に昭和20-30年代に激しく行われた封建社会の把握をめぐる論争の中心問題であったが,ドイツにおけるシャテルニーの存在如何が解明されなかったために,結局未解決に終わっている。昭和40年代以降封建社会に対する問題関心そのものが退潮していったために,ドイツ史についてシャテルニー問題も最近ではほとんど論じられなくなったが,しかし依然としてこの問題は避けて通れない問題なので,鋭意その解明に取り組んでいる最中である。

(2)担当科目の紹介

私の担当科目は西洋法制史であるが,講義では西洋の全体をフォローするのではなく,ドイツを中心に論じ,必要に応じてイギリス,フランス,イタリア等にも言及する。対象となる時代はゲルマン民族がヨーロッパに定住する紀元500年頃から14世紀までである。この科目は法律学と歴史学の両分野に跨るが,法律学の一分野としては,法概念を諸々の共同体の生活秩序というように広く捉え,このような法の発展をもたらす動機は何であるかを追究する。また歴史学の一分野としては,歴史現象の法的基礎を探求し,そのために法の視角から見た歴史学であるということができる。

中村 正人

【2007年度担当科目】

東洋法制史,裁判制度,外国書講読

【最近の研究分野】

清律の刑罰減免規定の適用状況を通してみた清朝法制度の特徴について

【学生へのメッセージ】

私が担当する東洋法制史は,伝統中国(中華民国成立以前の中国)の法の歴史を扱う学問分野です。こう言うと「なぜ日本の大学で中国法の歴史なのか?」という素朴な疑問を抱く人もいることでしょうが,「なぜ東洋法制史を学ぶのか」という問いに対して,概ね以下述べる二つの意義があると私は考えています。

(1)現代の法制度を相対化する視点を身につけることができる:

我々は往々にして現在の法制度が唯一絶対的なものと思い込んでしまい,そのため柔軟な発想で問題解決を図ることができなくなってしまいがちですが,こうした弊害を避ける一つの方法として,異なる国あるいは異なる時代の様々な制度の中に現代の法制度を置くことによって,現代法を相対化してしまうことが有用です。東洋法制史(およびその他の基礎法科目)はそうした視点を提供することができます。

(2)我々日本人の法感覚のルーツを考える上で役に立つ:

現在の日本法は,主としてヨーロッパ大陸法の影響を強く受けており,成文法の中には過去の中国法の影響は全くと言ってよい程ありません。しかしながら,我々日本人の法意識や法感覚には,それらヨーロッパから“輸入”した法律との間に少なからぬズレがあります。そして,東洋法制史の知識を深めていくにつれて,日本人が今でもなお伝統中国法に由来する法感覚を持ち続けており,そのことが上記のズレに繋がっていることが理解できるでしょう。

最後に,伝統中国法を理解するためには,中国の伝統的な国家イデオロギーであった儒教に対する知識が不可欠になります。そこで,開講前に一読して欲しい書籍として,以下のものを推薦します。

加地伸行『儒教とは何か』(1990年,中公新書)

東川 浩二

【2007年度担当科目】

法学概論,外国法, 基礎演習

【最近の研究分野】

アメリカ法の諸問題,特に,選挙制度,司法制度。残虐ゲームを中心とした表現の規制の問題にも関心がある。

【学生へのメッセージ】

アメリカは自由の国であると思われていますが,ここで「自由」という場合には一体どのような意味が込められているのでしょうか。日本では,缶ビールを路上で飲むことができますが,アメリカでは公共のスペースでの飲酒に厳しい制限を設けています。日本ではわいせつ雑誌へのアクセスが比較的容易ですし,過激な性表現,暴力表現を含む音楽や映画についても,ほとんど自由に楽しむことができますが,アメリカでは様々な規制が行われています。

このような規制が,どのような理屈で正当化されているのかを考えることによって,「アメリカにとっての自由」がどのような意味なのかを考え,翻って日本の状況について検討することが私の研究課題です。

最近の入門書で気に入っているのは,久保文明他『アメリカ政治』(有斐閣アルマ2006年)です。あと高山俊吉『裁判員制度はいらない』(講談社2006年)は,議論の暴走ぶり(危険運転??)が楽しめました。社会問題についてバランスよく勉強したい人にある意味お勧めです。

生田 省悟

【2007年度担当科目】

外国書講読,外国語表現法(英),異文化理解

【最近の研究分野】

環境思想,とくに「環境的公正」と「場所の感覚」

【学生へのメッセージ】

私の担当科目は法律学・政治学に直接関係するものではありません。むしろ,そうした学問分野にアプローチする際に必要な多様かつ相対的な視点を提供する科目と言ってよいでしょう。外国語を修得すること,異なる文化に対する理解を深めることの重要さについては改めて指摘するまでもありませんし,いわゆる「環境問題」は私たちに課せられた深刻な課題でもあります。私自身,こうした点を強く意識しながら授業を行なっているつもりです。

なお,法学部では環境法や環境政策に直接関わる授業科目は開講されていませんが,私の担当する外国書講読,異文化理解,環境思想演習は環境が提起する諸問題を扱いますので,濃淡を問わず,関心のある皆さんの受講は大歓迎です。

大学生として読んでおいてほしい本を1冊あげるとすれば,青木保『多文化世界』(岩波新書,2003年)があります。グローバル社会における政治・経済・環境・文化などの諸課題を考える際,異文化理解・多文化主義・協同のダイナミックな関連に対する優れた示唆を得ることができるにちがいありません。

2007年度「法学部ハンドブック」より