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徳本 伸一(民法)

徳本 伸一(民法)

「送り、送られ」 いまこの稿を書いているのは季節が静かに冬に向かっている晩秋のある一日のことです。東の空は明るいのに、遠くに雷鳴のとどろきが聞こえ、なにやら天候のくずれを思わせる黒い雲の動きが見られます。

遂にといいますか、やっとといいますか、今年度の卒業生諸君と共に、私も金沢大学を離れることになりました。いたずらに懐古的になるのはあまり趣味ではありませんが、それでも多少の感慨は伴うものです。

金沢大学には27歳のとき(昭和44年の秋)に赴任し、65歳で定年を迎えることとなりますので、単純に差し引き計算をすれば38年間の在職ということになります。このあとは、自然と戯れながら、自由・きままな時を送る予定にしています。

自分のことはこのくらいにしておきましょう。

ところで、諸君は、これまで法学部で勉強してきたわけですが、実社会に出ると諸君を取り巻く環境が一変することでしょう。社会の一員として働くことが第一義的なこととなるはずです。まずは朝寝坊の癖からの脱却を余儀なくされることでしょう。

法学部では集中的に法律学を学ぶので、法学部出身の人の中には、人々の普段の生活の中でも、いつでも法律問題が渦巻いているように思う人がいるかもしれませんが、社会における日常の営みの中で人が法律問題に直面するのは、長い人生の中でもそうたびたびあるわけではなさそうです。しかし、だからといって法的な知識や法律の規定に沿った合理的な解決への志向の意味が失われたり、減じたりするものではないでしょう。ごくまれであるとはいえ、人生の途上で、現実に法的解決の必要性に迫られることがあるとしたら、その時のためにこそ、これまで積み重ねてきたことが生きてくるのであり、また、それが自分自身のことでなくても、その問題に直面した人のためにこれまで学んだ知識を生かしてあげることができるかも知れません。ひとのためになってあげられるということは、とりわけ意義のあることではないでしょうか。

どのような形であれ、社会に出て、その成員の一人として、自分自身を生かすこと、このことを皆さんに期待して、今後の活躍を見守りたいと思っています。

これで皆さんとお別れすることになりますが、お互い、別々の所で暮らしていても、見上げる空は同じ空であり、時と場所を超えてなお絆は保たれているような気がします。

では、お元気で。

(この稿は、卒業生向けに書いたものです。)

2007年2月7日掲載