齊藤 高広(経済法・国際経済法)
「先生/あなた/君は,どうして,この仕事/法分野/課題を選んだのですか。」 このような質問は,いろいろな場面で,しばしば投げかけられますが,私にとって,いつも身の引き締まる問いかけになっています。専攻分野である経済法に興味を抱いたのは,学部学生時代に受講した講義や演習を通してでした。抽象的で取つきにくいと思っていた法律学が,現実の経済活動と深く関わっており,「おもしろい」と感じたこと,それが,そもそもスタートラインでした。
その後,研究者としての道を歩もうとする節目でも,同じ問いかけに直面しました。その際,大学生になる以前,つまり感受性が豊かな時期に味わった経験や,過ごしてきた時代背景にまで遡って内省することになりました(たとえば,それらは,些細な出来事だったのですが,自分の力を発揮できる機会を恣意的に奪われたことで,競争の機会や不平等・不公正という問題を意識した経験について,また,貿易摩擦の深刻化・日米構造問題協議・ベルリンの壁崩壊・不況や経済格差の問題が現れた時代を過ごした経緯についてです)。ところが,最近では,質問の真意は次の点にあるのではないか,と思うようになりました。すなわち,「今でも問題意識をしっかり持って仕事に取り組んでいますか」「本当に有益な課題を見つけ,取り組んでいますか」「講義や演習で,私たち学生が問題意識を持てるよう,工夫してくれていますか」と。その意味で,ついつい,いつもの怠慢癖が出てしまいがちで,「今春,金沢大学に着任したばかりで何かと多忙であること」を口実に研究や教育を疎かにしてしまいがちな私にとっては,緊張感を強いる問いかけになっています。
2006年6月22日掲載