[短信]法学類卒業生の法科大学院選択について
将来の仕事として弁護士・裁判官・検察官(法曹)を考えている人もいると思います。学年に1割程度でしょうか。知っての通り、法曹になるためには、予備試験合格または法科大学院(いわゆるロースクール)修了後に、司法試験合格する必要がありますが、多くの人は後者を選んでいるようです。
金沢大学にも法科大学院(大学院法学研究科法務専攻)がありますが、法曹養成委員会では、法学類から各法科大学院を経て法曹になるルートを継続的に追跡しています。そのデータの一部を、法曹になるには法学の勉強が得意でないとダメなのか、という点を中心にみることにします。
2013年度から2019年度までの卒業者で、法科大学院に進学した人(54名)の法学類卒業時GPAの平均値は2.64です。このうち、最終的に司法試験に合格した人(35人)の、法学類卒業時のGPA平均値は2.79でした。法学類在学時点でより成績が高い層が司法試験にも合格しやすいといえるかもしれません[注1]。
さて、どこの法科大学院に行くか、という選択にあたっては大学進学と同様に人それぞれの事情があるでしょう。昭和時代のように「都会で一旗揚げる」という発想が皆さんの世代にあるのかどうかはわかりませんが、率直に言って、たしかに金沢よりは大都市圏で過ごす方が、同じ夢を目指す大学院生が多く交流しやすいことなど、モチベーションを保ちやすいという利点はあるかもしれません。他方、もちろん、大学生の時代から慣れ親しんだ金沢で引き続き大学院生活を送れば、生活圏の変化に伴う様々なコストを支払わなくてよいという利点があるでしょう。
先ほどのGPA平均値を進学先別に分けてみると、進学時点では金沢大学の法科大学院進学者(15名)は2.60、他大学の法科大学院進学者(39名)は2.65でした。学類での成績が高い者はどちらかといえば金沢大学の法科大学院よりは他大学の法科大学院を選択しがちなのかもしれません。他方、司法試験合格者では、金沢大学の法科大学院に進学した合格者(6名)は2.95、他大学の法科大学院に進学した合格者(29名)は2.76でした。法科大学院進学の場合と司法試験合格の場合とでは進学先別のGPAの値が逆転しています。
ここでは、大学院進学者の意識を調べたり学生生活を追ったりしたわけではないので、あくまでも数値から推測するに過ぎません。その前提ですが、他大学の大学院に進学すれば、大学卒業時のGPAが相対的に低くとも、モチベーションを高く保った大学院生活の結果として合格し、他方、大学卒業時に一定の成績を修めている、いわば相対的に他大学の大学院進学者よりも勉強が得意な者については、環境を変えなくとも金沢大学の法科大学院での学習で司法試験に合格することができている、との解釈もできそうです。
[注1]分析対象数の問題から、卒業年度を区別せずに⾏った簡易的な分析です。また、平均値の比較にあたっては信頼区間や郡内分散等を考慮していないという点にも留意してください。[戻る]
(法学類 法曹養成委員会)